| 風呂 |
「ここならでっかい風呂を作れるってもんだな。よし、任せとけ!」 ビュッデヒュッケ城に着くなり、やる気マンマンな風呂職人ゴロウ。 彼が目指すのは、ライバルをうたた寝させてしまう位の極上な風呂。 「それが、その……」 トーマスが言いにくそうにゴロウに話し掛けた。 「ん?なんでぇ?」 「お城の中には、ちょっとお風呂場を作るスペースがありませんので、申し訳ないんですがこちらにお願いできません でしょうかね?」 そう言って、セバスチャンが案内したのは、地下の墓場から繋がる廃船だった。 「なにぃ〜?!」 仰天するゴロウ。 「わざわざ来てもらって申し訳ないんでけど、城内で配水経路を確保できないそうで」 申し訳なさそうな顔のトーマス。そう、この古い城には、大浴場に水を供給するだけの水路がないのだ。しかし今から 城を改築して配水経路を作るには、資金がない。 「ここなら湖水を引くこともできますし……」 汗をかきかき、弁解がましく言うセバスチャン。 「しかしよぉ、こんなボロ船に風呂を作ったら、重みでいっちまうかもしれねえぞ?」 ゴロウのいう事は至極もっともである。 「そこをなんとか……城の改修費用が捻出できるまでだけでも構いませんので、お願いできませんかねえ?」 城の財政を担うセバスチャンにこう言われては、仕方がない。ゴロウも渋々、船に風呂を作ることを承諾した。 「しかし、どうなっても俺は責任取れねえぞ?」 そして。ほどなく船に大浴場が完成し、人々の憩いの場となった。 「さて、お風呂にでも行こうかな」 執務室でうーんと伸びをして、トーマスは椅子から立ち上がる。 今日の仕事も一段落ついたことだし、夕食前に風呂に入ってさっぱりするのもいい。 「ヒューゴさんとジョー軍曹さんも一緒に行きませんか?」 たまたま執務室を訪れていた二人に声を掛ける。 「お?風呂か。いいな、付き合うとするか」 ダッククランの者は、得てして綺麗好きの風呂好きらしい。 「おれはいいよ」 ヒューゴは辞退したが、軍曹が首を横に振る。 「お前も一緒に来い。今日は暑かったから、大分汗をかいただろう?綺麗にしておかないと、みっともないぞ」 「ええ〜?後でいいってば」 「そう言って、いつも行かないだろう?今日はなんとしても連れて行くぞ。おいトーマス、そっちを持て」 がしっとヒューゴの右腕を捕まえて、軍曹はトーマスを振り返る。 「え?あ、はい」 慌ててヒューゴの左腕を捕まえる。ヒューゴは困り顔で二人の顔を代わる代わる伺ったが、どちらも離してはくれな そうだと、諦めて天を仰いだ。 「おれ、どうもあの熱い風呂苦手なんだけどなあ」 カラヤの村では、近くの川で水浴びをするのが常だった。それすらも面倒がってはルシアやルースに捕まって、 川に放り投げられていたヒューゴである。 「さあ、行くとするか。倉庫によって、あひるちゃんを持ってくるのを忘れんようにな」 弾むような足取りで歩き出す軍曹に、ヒューゴとトーマスは引き摺られるように執務室を出て行った。 船の甲板に上がった三人の目に飛び込んできたのは、暗雲立ち込める空だった。 「雨になるな」 空気の中に、すでに雨の匂いが感じられる。 「降られる前にさっさと入ろうぜ」 嫌なことは早く済ませたいヒューゴは、二人を追い立ててのれんをくぐる。 「よお!来たな」 番台で出迎えるゴロウは、いつものごとく元気がいい。 「今は空いてる?」 「ああ、誰もいねえな。さっきまであのうるさい姉ちゃんとお付きの兄さん達が入ってたが」 どうやらリリィたちのことらしい。ヒューゴとトーマスが思わず苦笑する。 「先に入るぞ」 ぱぱっと服を脱ぎ、あひるちゃんを手に軍曹が風呂場へと向かう。 慌てて服を脱ぎ散らかし、軍曹の後に続くヒューゴ。服を畳む分だけ遅れたトーマスがその後を追いかけた。 「心ゆくまで入ってくんな!」 「いい湯加減だ」 あひるちゃんと一緒にぷかぷかと浮かびながら、軍曹は上機嫌だ。 「本当、いいお風呂ですね」 頭に手拭いを乗せたトーマスも、とろけそうな笑顔を浮かべて湯船に浸かっている。 「なんでそんな熱い風呂に入ってられるんだよ?」 あっという間にリタイアしたヒューゴは、洗い場で適当に体を洗いつつ、気持ちよさそうに浸かりつづける二人を 信じられないという様子で見ていた。 「そうか?俺はもうちょっと熱くてもいいが」 「あんまり熱いお湯じゃ、茹でダックになっちゃいますよ」 にこやかに酷いことを言うトーマスに、さしもの軍曹も一瞬言葉に詰まる。 その時。 何の前触れもなく、湯船が大きく揺れた。 「な、なんだぁ?」 「地震?」 揺れは収まることなく続き、湯船のお湯が大きくうねって洗い場へと襲い掛かる。 「うわっ!ちょっと、なんなんだよこれ!」 泡まみれなところに湯船の湯をくらい、すっかり洗い流されたヒューゴが顔を拭いながら叫ぶ。 「外、見てください!すごい雨と風ですよ」 慌てて湯船から出たトーマスが、窓の向こうを示す。 外は、まるで台風にでも直撃されたかのような暴風雨が吹き荒れていた。 激しい雨と風に湖面は荒れに荒れ、そこに浮かんでいるこの船も、まるで木の葉のように玩ばれている。 「早いところ出よう!」 そう言うが早いかヒューゴは出口に走り、トーマスもそれに頷く。 「仕方ないな」 あひるちゃんを大事に抱え、軍曹も湯船から飛び出す。 そして三人が出口に辿り着いたその瞬間。 今までにもまして激しい揺れが風呂場を襲った。 どどーんと言う轟音と共に、男湯の出入り口から大量のお湯と砕け散った湯船が脱衣所になだれ込んでくる。 「なんだぁ、こりゃあ?!」 番台にいたゴロウがそう怒鳴るのもつかの間、大量のお湯に飲まれて姿が見えなくなる。 たけり狂ったお湯は甲板に流れ込み、やがて荒れ狂う湖面へと流れ落ちていった。 そして。 怒涛の流れが過ぎ去った甲板には、すっぱだかの三人とびしょ濡れのゴロウが、仲良く目を回していたという。 唯一無事だったあひるちゃんは、何事もなかったかのように甲板の上に浮かんでいた。 「……やっぱり、場所替えてくんねえか?」 「……考えときます」 -完- |
あの風呂場の場所は絶対に間違ってますって(^_^;) 晴れた日はいいでしょうが、雨の日や冬なんて、入れませんよ(>_<) まして嵐の日には……。 |