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2002 クリスマス記念SS
聖なる夜の贈り物

 それは、御子の生まれた夜だという
 聖なる夜 星々の祝福のもと この世に誕生した子供
 白い雪の降る夜に
 小さな奇跡は舞い降りる


「……へえ、そんな風習があるんだ」
 ヒューゴの言葉に、トーマスは頷いてみせる。
「僕も詳しくは知らないんだけどね。なんかすごく楽しそうなんで覚えてたんだ」
「だよなぁ。それ、俺もやってみたい」
「あ、ヒューゴくんもそう思う? それじゃあ……」
 嬉しそうに話し込む二人の少年の横を、茶色い髪の女性がふと通りかかる。
 そして、楽しそうな二人の顔に興味を持ったのか、そっと会話に割り込んだ。
「楽しそうだけど、何のお話?」
「ああ、アップルさん。あのね、トーマスさんが……」
「あ、ヒューゴくん、言っちゃ駄目だよ」
 慌ててヒューゴの口をふさごうとするトーマスに、しかしヒューゴは持ち前の素早さで彼の手をかいくぐり、言葉を続ける。
「大人の人にも協力してもらった方がいいって。アップルさんなら口かたそうだしさ」
「まあ、そうかもね……」
 納得するトーマス。その様子に、アップルはひょい、と二人の顔を覗き込む。
「楽しい相談事なの?」
 二人は顔を見合わせると、大きく頷いて言った。

「クリスマスだよ!」

「まあ……」
 思わず目を丸くするアップル。しかしすぐににっこりと微笑むと、浮かれ気味な二人の少年の計画に耳を傾けはじめた。


「なんだか最近、あの二人よくつるんでるよな」
 城の廊下を歩きながら呟くシーザーの視線の先には、なにやら楽しそうに話しこんでいるトーマスとヒューゴの姿。
「あら、そう?」
 シーザーの隣を歩くアップルの相槌に、シーザーは眠そうな瞳で静かに笑う。
「ま、年も近いし気が合うのかもしれないな」
 その言葉に思わず小さく吹き出すアップル。
「あなただって、二人と大して変わらないでしょう?」
 アップルの言葉に、ちょっとすねたような目でアップルを見上げるシーザー。
「俺は子供じゃないからな。あんなふうに、無邪気にはしゃいだりなんてしないさ」
「あなたは昔から、遊ぶより居眠りをする方が好きだものね。ああ、そういえば……ナッシュさんを知らない?」
 唐突に言ってくるアップルに、シーザーは首を傾げる。
「ナッシュさん? 確か酒場で見かけたけど……何か用でもあるのかよ」
 その言葉に、アップルは珍しくいたずらっこのような目をして言ってのけた。
「ひみつよ」
「ちぇ、つまんねーの」
 不貞腐れるシーザーを宥めつつ、アップルは廊下の端で楽しそうに話している二人の少年に視線を向ける。
「たまにはいいわよね。そんなのも」
 ほんのひと時であっても、楽しい時間を共有できることは素晴らしい。
 たとえ今が、戦いの最中であっても。
「なにがさ?」
「ううん、なんでもないわ。さあ、それじゃ私は用があるから」
 そう言って階段を下りていくアップルの後姿を見送りつつ、シーザーは口の中で呟いた。
「俺にも教えてくれないなんて……つまんねーの」


「こりゃまた……急ぎっていってもなあ」
 取り寄せの注文表をざっと眺めて、交易商のスコットは頭をかいた。
「間に合うかな?」
 ナッシュの言葉に、スコットはうーんと唸る。
「ぎりぎりってとこだね。しかしなんでまた、こんな急ぐんだい?見たとこ急ぎで使うもんじゃないものばっかりだが」
 注文表に記載されている膨大な量の品物は、ほとんどが日用品だ。しかしナッシュは、これを24日までに必ず揃えられないかと持ちかけてきたのである。
「そいつはちょっと秘密なんだけどね。道具屋のゴードンにも話をつけてあるから、協力してやってくれるか?」
 スコットも商人としてのプライドがある。少々厳しい条件の話ではあったが、出来ないとは言えない。
「まあ、やってみるよ。ゴードンさんと協力してならなんとかなるだろ」
 その言葉にナッシュはほっと安堵の息をもらすと、改めて
「それじゃ頼むよ。届いたら知らせてくれ。24日までに、頼むからな」
「ああ、任せてくれ」
 軽い足取りで去っていくナッシュ。その姿が扉の向こうに消えてからも、スコットは注文表を凝視して首をひねっていた。
「しかし、何に使うんだ?」


「ん? 別にいいけど」
 いつも通りあっさりとしたメイミの返答にほっとしつつも、トーマスはなおも念を押す。
「それじゃ、当日まで誰にも内緒でお願いしますね。絶対ですよ」
「大丈夫、任せて。誰にも言わないよ。でもなんで、こんな時期にパーティなんかやるのさ?」
 首を捻るメイミに、トーマスは笑顔で、
「それはまだ、内緒です。それじゃ、お願いしますね!」
 と言い、足早にレストランを去っていく。
「・・・まあ、わたしもパーティは好きだからいいけどね。それじゃメニューを考えないとなあ・・・」
 あまり深く考えない性格の彼女は、トーマスを追及することなく、すぐに自分の仕事に取り掛かった。


 そして
 息も凍る白い夜
 聖者はやってくる 人々のもとへ
 小さな幸せを届けに 闇を越え 夜を越え
 聖者は城に やってくる


「・・・よし、あとちょっとだな。はやいとこやっちまおう」
「時間があまりないわ。私達が包むから、出来上がったものから運んでちょうだい」
 闇に覆われた執務室に、ほのかなろうそくの明かり。
 寝静まったビュッテヒュッケ城で、そこだけが活動を続けていた。
 昼間から、仕事が忙しいと言う理由で締め切られた執務室。そこは今、まさに戦場と化している。
「分かりました。あ、これ残りのリストです。間違えないようにお願いしますね」
「俺たちこそ、間違って置いてこない様にしないとな」
「そ、そうだね。あと、誰にも気づかれないように……うわぁ、大変かも」
「今更泣き言を言いなさんな。ほら、とりあえずこれ、置きに行ってくれ」
「は、はい……」
 ぱんぱんに膨らんだ白い袋。それを肩に担いだ二人の少年が、足音を立てないようにそっと歩き出す。
「ふふ、なんか楽しいね」
「ああ、みんなの驚く顔が目に浮かぶよ!」


 聖者からの贈り物
 よい子にしてたらもらえるよ


 そして、朝。

「なんだこれは」
 枕元に置かれた包みに、クリスは銀の髪をかきあげながら手をのばす。
 昨日眠りについた時にはこんなものはなかった。誰かが、眠るクリスの部屋に忍び込んで置いていったのだろうが。
「……怪しい」
 そう思いつつも、クリスは包みを解いてみる。
 白い包み紙の中から現れたのは、小さな首飾り。そしてメッセージカードが添えられている。
「メリー クリスマス……なんのことだ」
 ゼクセンでは聞かない言葉だが、その筆跡に見覚えがある。それは几帳面なトーマスの文字だ。
「クリスさま!」
 首飾りをしげしげと見つめるクリスのもとに、ドアを開けて飛び込んできたルイスがやってくる。
「どうした、ルイス。ノックもしないで入ってくるとはお前らしくもない」
「ご、ごめんなさい。あの、昨日僕とパーシヴァルさんが夜番だったんですけど、気づいたら寝ちゃってて、それで、その・・・」
 ルイスの手には、クリスのものと同じような包み。
「お前にもか」
「僕だけじゃありません。パーシヴァルさんにも、他の人たちにも同じような包みが・・・・・」
「……まあ、誰の仕業かは大体わかる。どうやら贈り物らしいな」
「誰からの、ですか?」
 首を傾げるルイスに、クリスはそっと笑ってみせた。
「きっと、よい精霊の仕業だろうよ」
「ええっ?」
 目を白黒させるルイスに、クリスはただ微笑むのみだった。


「・・・クリスマスプレゼントか・・・・」
 包みをもてあそびつつ、ゲドは呟く。それは、枕元にいつの間にか置かれていたものだ。
「たたた、大将!こりゃあいったい、なんだっていうんですかい?」
 同室のエースが一人騒いでいる中、ゲドとジョーカーは静かに包みを解く。
「随分とめずらしいことだのぉ。この年になってプレゼントを貰うなどとは思わなんだ」
「・・・同感だな」
 ジョーカーには晩酌セット、ゲドには新しい剣帯のプレゼント。
「しかしまあ、嬉しいものではある」
「だ、誰からの贈り物だってんです?怪しいですぜ」
 一人まだ騒いでいるエース。と、静かに扉が開いてクイーンとジャックが入ってくる。
「なに騒いでるんだい、廊下まで丸聞こえだよ」
「・・・おはよう・・・」
「おお、二人とも。プレゼントはなんじゃった?」
 陽気に尋ねるジョーカーに、クイーンはすっと髪をかき上げてみせる。そこに光るのは綺麗な耳飾り。
「おれ・・・・・これをもらった」
 ジョーカーは首から変わった形のネックレスを下げていた。カラヤ族が好んでつけるものと似ているそれは、意外にも彼に似合っている。
「ほらほら、あんたも開けてみるんだよ」
 クイーンにせっつかれても、まだエースは包みを開けようとしない。
「だ、だってよお、罠かもしれないじゃないか」
「お前さんを罠にかけるような暇人がおるか」
「た、確かに・・・ておい!」
 と、それまで静かにプレゼントを見つめていたゲドが口を開いた。
「聖夜の贈り物だ。ありがたく受け取っておけ」
「大将? なんですかい、その聖夜ってのは」
「・・・遠い国の、古い伝承さ」


「へええ、聖者の生まれた夜、ねえ」
 綺麗な刺繍の施された肩掛けを鏡の前で羽織りながら、ルシアはビッチャムの話に相槌を打つ。
「ああ。なんでも、一年間よい子にしていた子供には、聖者がプレゼントを贈るそうだ」
「よい子、ねえ……」
 苦笑しつつも、肩掛けを気に入ったらしいルシアはくるりと振り返り、どうだとばかりにポーズを取る。
「ヒューゴだろうなあ、選んだのは」
 色とりどりの刺繍は、カラヤの民が好むもの。
「だろうねえ」
 いくつになっても、プレゼントは嬉しいものだ。たとえちょっとセンスが悪くても。


「トーマスさま、トーマスさまぁっ!!」
 いつものように執務室に駆け込んだセシルは、目の前に広がる光景に目を丸くした。
 執務室に散乱する包み紙やリボン。そして、すっかり疲れ果てソファで眠り込んでいるトーマスとヒューゴに、アップルが優しく毛布をかけ直してあげている。
「ごめんな。起こさないでやってくれるか?二人とも、色々あって疲れてるみたいだからさ」
 唇に指を当てて言ってくるのはナッシュ。そのナッシュも、少々疲れ顔だ。
「は、はい……あ、あの!」
 大きな包みを大事そうに抱えながら、セシルはナッシュとアップルに問いかける。
「これ、起きたら枕元にあったんですけど、これって……」
 二人は顔を合わせると、くすりと笑って口を開いた。
「名もない聖者からの贈り物だよ」
「大事になさいね。選ぶのにすっごい苦労したみたいだから」
 その言葉に、セシルはそっと包みを解く。
 朝、一度開けてみたものの、また包んでしまった贈り物。それは、彼女にはあまりに縁遠いもので。
「これ、私が着ていいんでしょうか」
 柔らかな水色のドレス。ご丁寧に靴や髪飾りまでついているのは、ナッシュの配慮によるものだ。
「ええ。今日の午後から食堂でパーティをやるのよ。その時に着ていったら、きっと喜ぶんじゃない?」
 まるでタイミングを見計らったかのように、執務室のドアがバン、と開いてメイミが顔を覗かせる。
「そろそろ料理作り始めるから、約束どおり手伝って……って、あらら」
 ソファで眠りこける二人の様子に、肩をすくめるメイミ。
「やれやれ、これじゃ使い物にならなそうだね」
「よければ私たちが手伝うわ。ねえ、ナッシュさん」
「え、俺もか? ……まあ、構わないけど」
「それじゃお願いします。いやー、忙しい忙しいっと」
 そう言いつつ楽しそうなメイミはさっさときびすを返して食堂へと戻っていく。
「それじゃ、また後でね」
「それ、きっと似合うぜ。セシルちゃん」
 彼女に続いてアップルとナッシュも部屋を出て行き、部屋には眠りこける二人とセシルが取り残される。
「トーマスさま、ヒューゴさま……」
 遠い国の楽しい習慣を倣って、城中の人間にプレゼントを配って回った、二人の少年。
 その寝顔はとても安らかで、大仕事をやり遂げた後の充実感が伝わってくる。
「素敵なプレゼント、ありがとうございました。ゆっくり休んで下さいね」
 そう呟いて、セシルは静かに部屋を出て行く。
 そして、昏々と眠り続ける二人の寝息だけが、執務室に響いていた。


 今日は 特別な日
 喜びが 舞い踊る夜

 雪に乗って 光に乗って
 幸せよ 降りそそげ

 Merry Christmas to you!

-完-


 てなわけで、クリスマス企画フリーSSなんぞ書いてみました。
 この世界にクリスマスがあるのか、そもそもあの幻水IIIの時期は冬じゃないだろうという突っ込みはおいておいて(^_^;)

 ヒューゴとトーマスって仲良さそうだと思いません?
 私の中ではもう、大親友くらいのイメージがあるんですよね。
 で、二人が手を組んで小さな幸せを配ってます。大人二人を巻き込んだのは、100個近いプレゼントを選ぶのも揃えるのも大変だったからでしょう。
 ちなみに私、キリスト教徒じゃないんで「聖夜」に関する記述はかなり曖昧です。
 まあ、遠い世界のお話と言うことでご勘弁を。
 出てくるキャラに偏りがあるのは、ひとえに私の趣味です(^_^;)お気に入りのキャラが出てないよ〜という方、たくさんおられると思いますが、ご勘弁下さい。

 皆さんにも幸せが降りそそぎますように!

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