あの人は行ってしまった
あたしを置いて
あたしを守りたいからなんて
そんな言葉を残して
同盟軍の話がこの町に入ってきたのは、随分前のことだったと思う。
ノースウィンドウの町を改修して、同盟軍がそこに本拠地を構えたこと。
共に戦おうと、続々と人々が結集していること。
この町で交易商を営んでいたシュウさんが軍師として参加してから、この町からも多くの人間が
同盟軍へと身を投じていった。
船乗りが必要だからとアマダさんも呼ばれていったし、本拠地が町として発展していってからは、
鑑定の腕を買われてレブラントさんも行ってしまった。
旦那さんと一緒にいたいと、ヨシノさんも本拠地に移ってしまったし、探偵のリッチモンドさんまで、
なんだか知らないけど同盟軍に入ったらしい。
そんな人たちを追うように、あの人も行ってしまった。
優しいあの人。喧嘩もしたことないし、何か出来るわけでもない。
この町で細々と暮らしていた、ごく普通の人なのに。
あの人は行ってしまった。
こんな自分でも、何かの役に立てるかもしれないだなんて言って。
今戦わなくて、いつ戦うんだ、なんて言って。
僕とキミの未来を守るために、戦うんだなんて言って。
あの人は行ってしまった
時折、この街にやってくる赤い服の少年。町の人々に声をかけては、またどこかへ消えていく。
その度に、町から人々が同盟軍へと身を投じていった。
彼が同盟軍の盟主だと聞かされて、あたしはびっくりしたけれど。
逆に、悲しくもなった。
あんな少年が、矢面に立って戦っているだなんて。あんな優しい笑顔を見せる子が、殺し合いを
しなきゃならないだなんて。
なんて悲しい、辛い戦いなんだろう、と。
こんな戦い、早く終わってくれればいいのに、と。
俊足のスタリオンさんもいなくなり、盟主を装って袋叩きにされたホイって奴もいなくなった。
川縁にいた変な奴らも、いつしかいなくなっていた。
大勢の人間が出て行って、町には帰りを待つ人達のため息だけが溢れる。
中には家族ごと本拠地に移った人もいたけれど、あたしはこの町を離れない。
だって、あの人が帰ってくるのはここだから
あたしの待つ、この町なんだから
あたしは、今日も水門の上で彼を待つ
ここは、あたしとあの人の思い出の場所
あの人が帰ってきたら
この川に零れた涙の分だけ、抱きしめてあげよう
それまで、あたしはここで待ち続ける
迫り来る夕日にため息をつきながら、明日に思いを馳せる
明日はきっと、あの人が帰ってくる
きっときっと、あの人は帰ってくる……
-完-
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